二酸化硫黄とは、『酸化防止剤』としてワインに使用されている物質です。
世界中のワインの99%で酸化防止剤は使用されており、醸造学上不可欠なものです。
しかし近年の健康志向により、『酸化防止剤無添加』のワインが流行しています。
酸化防止剤は本当に有害なのでしょうか?
この記事では『酸化防止剤』についてお話しします。
酸化防止剤とは
『酸化防止剤』とは、食品等の酸化を遅らせる抗酸化物質のことです。
ワインの場合、『二酸化硫黄』『亜硫酸』『亜硫酸塩』『亜硫酸カリウム』が主に使用されます。
亜硫酸とは二酸化硫黄の水溶液のことです。ここではほぼ同じものと考えても支障はないと思います。
まず第一に、『二酸化硫黄』は、アルコール発酵の副産物で生成されています。
すべてのワインは酵母によるアルコール発酵で造られていますので、『二酸化硫黄ゼロ』のワインはありません。
販売されている酸化防止剤ゼロのワインは、「酸化防止剤を添加していない」という意味です。
副産物として生成された二酸化硫黄は「酸化防止剤として添加しているわけではない」ので、間違いではないと思うのですが、二酸化硫黄は酸化防止剤の一種ですので「酸化防止剤ゼロ」という表記では少し疑問が残るかもしれませんね。
ヴァンナチュールとは
近年『ヴァンナチュール』と呼ばれるワインが流行しています。
この『ヴァンナチュール』とは、特に明確な定義があるわけではありませんが、「ヴァン=ワイン、ナチュール=自然な」という意味の通り、自然な製法で造られたワインを指します。
そんなヴァンナチュールの造り手は、酸化防止剤の添加量を無添加または最小限にすることが多いです。
なるべく人の手をかけずにワインを造りたいという考えが『ヴァンナチュール』ですから、人の都合で物質を添加したくないのでしょう。
酸化防止剤はどのように作用するのか
ワイン全体の亜硫酸量を『総亜硫酸』、添加したものなどは『フリー(遊離)亜硫酸』、フリー亜硫酸が結合したものを『結合亜硫酸』といいます。
亜硫酸はアセトアルデヒドやポリフェノール、糖と結合します。
このアセトアルデヒドはエチルアルコールが酸化することによって生まれる科学物質です。
低濃度ではワインに複雑な香りを付与しますが、高濃度になると強い刺激臭のように感られてしまいます。
しかし亜硫酸がアセトアルデヒドと結合することによって、アセトアルデヒドの不快臭を防ぐことができます。
また、酸化防止作用を保持しているのは『フリー亜硫酸』です。
このフリー亜硫酸は、ワインを瓶詰めした後徐々に減少していきます。
酸化防止剤の効果は瓶詰め後徐々になくなっていくということですね。
この減少速度は「高温で早くなり」「低温で遅くなり」ます。
そのため「なるべく長く酸化防止作用を継続させることを第一考える」場合、低温での保存が好ましいということになります。
酸化防止剤は頭痛の原因?
『二酸化硫黄』を大量に吸い込んでしまうと体に良くありません。
しかしワインに使用できる酸化防止剤の量は決められており、その規定内の量であれば体に害はありません。
「赤ワインを飲むと頭痛がする」と言う方がいらっしゃいます。
その頭痛の原因は『酸化防止剤』だと考えている方もいらっしゃいますが、それは間違いです。
ワインに含まれている程度の酸化防止剤では頭痛の原因にはなりません。
この頭痛を引き起こしているのは『ヒスタミン』という物質です。
この『ヒスタミン』は、ワインのマロラクティック発酵によって生じる物質です。
『マロラクティック発酵』とは「リンゴ酸を乳酸」に変える発酵で、シャープな酸味をまろやかに仕上げることができます。
そのような効果があるので、マロラクティック発酵は白ワインよりも赤ワインで用いられることが多く、赤ワインを飲んで頭痛がするというのはこのヒスタミンが原因であることが多いです。
ワインに酸化防止剤を入れるタイミング
酸化防止剤はワインの瓶詰前に添加するだけではありません。ワイン醸造において様々なタイミングで添加されています。
①圧搾時
ブドウを搾るタイミングに、酸化防止剤を添加します。
果汁が初めて酸素に触れるタイミングなので、非常に重要なタイミングです。
ここで酸化防止剤を添加をしないと、果汁が茶色くなったり、フルーティーで繊細な香りが消えてしまいます。
②マロラクティック発酵後
アルコール発酵の後に、乳酸の働きによりマロラクティック発酵が行われます。
このマロラクティック発酵の後に二酸化硫黄を添加します。
マロラクティック発酵中に添加することで、マロラクティック発酵を途中で終わらせることもできます。
リンゴ酸を残してシャープな酸味が感じられるワインを造る場合、マロラクティック発酵が始まる前に二酸化硫黄を添加し、マロラクティック発酵が起こらないようにします。
③瓶詰め前
瓶詰め後の酸化を防ぐため、瓶詰め前に二酸化硫黄を添加します。
二酸化硫黄の効果
二酸化硫黄を添加した際の効果を説明します。二酸化硫黄を添加しないと、この効果を得ることが出来ません。
①殺菌作用
二酸化硫黄を入れると、バクテリアなど雑菌の働きを妨ぐことができます。
バクテリアが増殖してしまうと、ワイン中の有機酸を壊し、酢酸が生じてしまう可能性があります。
二酸化硫黄を添加すると、バクテリアは動くことができなくなりますが、酵母は動くことができます。これは二酸化硫黄のひとつの特徴として挙げられます。
また、二酸化硫黄を添加しないと、マロラクティック発酵後に雑菌に繁殖されるリスクが高くなります。
ブレタノミセスによる汚染も考えられますね。
ブレタノミセスについて詳しくはこちらをご覧ください。
②酸化防止作用
酸素の影響を妨ぐことが出来ます。
これはアセトアルデヒドと結合するということですね。
③ポリフェノールオキシダーゼを弱める
ブドウにはポリフェノールと、ポリフェノール オキシダーゼが含まれています。
ポリフェノール オキシダーゼとは、ポリフェノールの酸化を促進する酵素です。
リンゴにもポリフェノールオキシダーゼが含まれています。
そのためリンゴは酸素に触れると、すぐ茶色に変色してしまいます。
二酸化硫黄を添加することで、このポリフェノール オキシダーゼの働きを抑えることが出来ます。
④溶解作用
二酸化硫黄を添加することで、ブドウの細胞壁が溶けやすくなり、ポリフェノールの抽出が容易になります。
ポリフェノールの抽出が容易になるということは、ワインは濃い色調を得ることが出来ます。
ブルゴーニュで行われている『低温浸漬』という製法があります。
この低温浸漬は、発酵前に果汁と果皮などを漬け込む製法のことで、濃い色調と豊かな果実味を得ることができます。
二酸化硫黄を添加することにより、この『低温浸漬』の効果は高くなるのです。
最後に
酸化防止剤はワイン醸造においてとても重要であることがわかりましたね。
酸化防止剤を「添加していないから美味しい」ということではありませんので、ワインを購入するうえで、一つの要素として考えるようにしてください。